年金不安が叫ばれる中、リタイアした後の資金に困らないよう、現在国では積立投資を推奨しています。
運用益に課税されない積立投資として、つみたてNISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)が有名です。この2つの違いは何でしょうか?
この他政府税制調査会では、これらの問題点を克服する形での新たな非課税投資のあり方も検討していますが、具体的にはどのような制度でしょうか?
つみたてNISAとは?
株式投資の非課税制度として、2014年から始まったのがNISAです。通常の株式投資では、売却益に対して約20%の所得税・住民税が課税されますが、NISAでは課税されません。
この(一般)NISAは、年間投資非課税枠が120万円(月平均10万円投資可能、制度開始当初は年間100万円)と決まっていますが、投資(買い付け)のタイミングは自由です。
非課税で売却できるまでの期間(非課税期間)は、5年間(ロールオーバー手続きにより10年間まで延長可)です。
つみたてNISAは、定期的に一定額投資しないといけません。年間非課税枠は40万円と少ないですが、非課税期間が最長20年間と長く、非課税枠の総額は800万円と一般NISAより多く設定されています。
またつみたてNISAの購入対象商品は、金融庁に認められた投資信託に限定されています。運用管理手数料として払う「信託報酬」が低い投資信託が多いのが特徴です。
iDeCoとは?
iDeCoは個人型確定拠出年金の愛称であり、確定拠出年金制度自体は2001年には始まっています。NISAと同様に投資非課税制度ではありますが、年金制度でもあります。
公的年金にしろそれに上乗せされる企業年金にしろ、給付額が定まっている年金制度が多いです。確定拠出年金はその名のとおり、拠出額は定まっていますが、資金の運用は自分の選択で行うため、給付額は確定ではありません。
原則として、月額決まった掛金を拠出するため、定期的な資金を出して投資する点はつみたてNISAと共通しています。年間の拠出額には上限がありますが、加入している年金制度・職業によって下記の表のように異なります。
第1号被保険者 | (自営業者など国民年金加入者) | 81.6万円 |
第2号被保険者 | 公務員 | 14.4万円 |
(厚生年金加入
の会社員) |
DB・企業型DC未加入 | 27.6万円 |
DB未加入・企業型DC加入 | 24万円 | |
DB加入 | 14.4万円 | |
第3号被保険者 | (専業主婦) | 27.6万円 |
表1:iDeCoの年間掛金拠出限度額
※DB…確定給付型企業年金 DC…確定拠出年金
そしてiDeCo特有の大きな特徴として、拠出した掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、所得税や住民税の課税対象所得から差し引けるというのがあります。もっとも所得税の税率は課税所得により異なるので、同じ掛金額でも節税効果が人により異なります。
例えば、年間掛金24万円で所得税率20%・住民税率10%の場合は、24万円×(20%+10%)=7.2万円の節税効果があります。もう少し所得が低く所得税率10%の場合は、節税効果は4.8万円に下がります。
掛金は定期預金・投資信託・保険商品のいずれかに投資します。運用益に対してNISAと同様非課税ですが、年金もしくは一時金として受け取る場合は、雑所得もしくは退職所得として課税対象となります。
つみたてNISA・iDeCoの比較と問題点
つみたてNISAとiDeCoは両方とも非課税の積立投資と言う点では共通していますが、iDeCoは上乗せ年金制度のため、加入している公的年金制度や職業別に掛金が異なります。
両者は非課税の概念も大きく異なります。運用益非課税は共通ですが、iDeCoが掛金を所得から差し引くことができるのに対し、つみたてNISAは投資した額(最大年間40万円)を差し引くことはできません。
逆に、iDeCoで積み立て運用した資金から年金や一時金を受け取る場合は課税されますが、つみたてNISAの口座から資金を引き出しても、預金の引き出しと似たような性質なので課税されません。
つみたてNISA | iDeCo | |
投資対象 | 金融庁が認めた
投資信託 |
投資信託
定期預金・保険 |
年間投資可能額 | 40万円 | 表1参照 |
投資額の扱い | 税額に影響しない(T) | 所得控除になる(E) |
運用益の課税 | 非課税(E) | 非課税(E) |
払出金の課税 | 非課税(E) | 課税(T) |
払出の可否 | いつでも | 60歳まで不可 |
表2:つみたてNISAとiDeCoの比較
表2において課税の「T」と非課税の「E」を使用していますが、iDeCoはEET型、つみたてNISAはTEE型の制度と言われることがあります。
EETは支払時非課税・運用益非課税・給付時課税の意味であり、TEEは支払時課税・運用益非課税・給付(払出)時非課税という意味です。
なお支払については、所得から差し引かれる控除に該当する場合に非課税(E)と定義づけ、控除に該当せず個人所得課税に影響しない場合を課税(T)と定義づけています。
つみたてNISAに関しては個人の所得や職業に関わらず、年間40万円・最長20年間という同一の非課税枠が設定されています。
しかしiDeCoに関しては、職業によって細かく掛金上限額が分かれているうえ、その上限額が必ずしも個人のニーズに合致しているとは言えないのが実情です。
例えば高所得の公務員では年間14.4万円だけではもっと節税したいと考えるケースも想定されますし、逆に自営業者でも所得が低い場合は年間81.6万円も控除額が必要とは言えないケースが想定されます。
年功序列型賃金であれば、年齢が高くなるほど給与が上がり控除額が大きいほうが良いとも考えられます。
また職を変えた場合に、職業ごとに異なる上限設定が原因で、掛金額を変更しなければならないケースもあります。
新たな老後資産形成の非課税投資
非課税投資制度である「つみたてNISA」「iDeCo」の名称が知られるようになったのは、どちらも2017年のことです。あるべき税制の姿を議論する政府税制調査会は、2018年には早くも別の非課税投資制度の検討に入っています。
この非課税制度は、アメリカの伝統的IRA(個人退職勘定)に近いEET型の制度で、iDeCoを改良するような形が想定されます。
現状のiDeCoでは、個人の所得に適した掛金上限額が設定されているとは言えません。所得が低く掛金上限まで払えない場合は、翌年以降に払える額を繰り越して節税をもっと活用できるような制度が想定されています。
諸外国の非課税投資
アメリカのIRA
まずアメリカのIRAから見て行きましょう。IRAには、伝統的(トラディショナル)IRAとロスIRAがあります。
伝統的IRAは日本のiDeCoに近いEET型の制度で、拠出額が所得控除となり給付時に課税されます。
70.5歳まで掛金拠出できますが、日本も70歳まで働く時代になりそうなためこの制度は参考になります。拠出の限度額も定められており、5,500ドル(50歳以上は6,500ドルに拡充)もしくは年間給与のいずれか低い方が適用されます。
ただし、この所得控除には所得合計により控除額が縮小または消失する「所得制限」が設けられています(2018年以降の配偶者控除のようなイメージです)。
給付開始年齢は59.5~70.5歳で選べますが、それ以前にも給付は受けられます。ただし、原則10%の追加課税がされます。
ロスIRAは、日本のつみたてNISAに近いTEE型の制度です。老後でも拠出可能であり、現役時でも積立額を引出可能です。
拠出限度額は、伝統的IRA拠出限度額から伝統的IRA拠出額を差し引いた額であり、こちらも所得制限があります。
つみたてNISAとiDeCoは制度が全く異なるので、非課税枠・拠出限度額が全く別々に定められています。米国では、伝統的IRA・ロスIRAともに同じIRAという枠組みで制度設計されており、両者を統合した拠出限度額が定められています。
|アメリカ以外の制度
ドイツには、リースター年金というEET型の確定拠出年金制度があります。拠出額の所得控除の他に助成金を受けることもできます。
イギリスやカナダでは、企業型・個人型年金を問わず共通の非課税枠があり、未使用の枠は繰り越せます。
自分に合った制度を選ぼう
つみたてNISAとiDeCoは、同じ積立型の非課税投資制度でも、制度の特性が全く異なります。
iDeCoは拠出額分だけ所得から控除できますし、商品ラインナップもつみたてNISAよりはバラエティに富んでいます。しかし控除できる所得が無ければ、税制優遇の効果が薄れます。
つみたてNISAは控除できる所得があっても無くても、同一の税制優遇効果があります。もっともiDeCoの場合、原則として老後に給付を受けるために積み立てますので、積立額に対して財産の差し押さえを受けることはありません。
つみたてNISA・iDeCoとも老後資産の形成には有効な手段ですので、制度の特性を理解して自分に合った制度を利用しましょう。なお両方利用することも可能です。
新たな積立投資の制度ができる可能性も高いので、今後の動向にも注目しましょう。
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